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京都地方裁判所 昭和39年(ワ)421号 判決

原告 谷村市蔵

右訴訟代理人弁護士 黒川新作

被告 津波三平

右訴訟代理人弁護士 大国正夫

主文

被告は、原告に対し、別紙目録記載の家屋(本件家屋)を明渡し、昭和三八年八月一日から右明渡済まで一ヶ月金八五〇円の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は、原告が金一〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮りに執行できる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決と仮執行の宣言を求め、その請求原因として、

「一、原告は、訴外宿女得次郎(通称宿女源次郎)より、その所有の本件家屋一戸と東側の一戸(原告現住)との二戸一棟を賃借し、宿女得次郎承諾の上、本件家屋を被告に賃貸し、昭和三七年六月一日当時、宿女得次郎原告間の二戸一棟の賃料の約定は一ヶ月金一、七〇〇円であり、原告被告間の本件家屋の賃料の約定は一ヶ月金八五〇円であった。

二、被告は本件家屋の賃料を昭和三七年六月分より支払わない。

三、原告は、被告に対し、昭和三八年七月二二日発信翌日頃到達の内容証明郵便をもって、本件家屋の昭和三七年六月一日より同三八年六月末日までの延滞賃料金一一、〇五〇円(一三ヶ月分)を同三八年七月二五日までに支払を求め、支払わないときは本件家屋賃貸借契約を解除する旨の催告並びに条件付契約解除の意思表示をした。

四、被告は右催告の延滞賃料を支払わなかったから、本件家屋賃貸借契約は昭和三八年七月二五日の経過とともに解除となった。

五、よって、原告は、被告に対し、本件家屋の明渡、昭和三八年八月一日から右明渡済まで一ヶ月金八五〇円の割合による賃料相当の損害金の支払を求める。

六、被告主張の四の供託の事実は認めるが、その余の抗弁事実は争う。原告は宿女得次郎に対して賃料支払を遅滞したことはない。」

と述べた。

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「一、原告主張の一、三の事実は認める。

二、被告は、原告に対し、昭和三七年六月末日頃、同月分の賃料を提供したが、原告は、受領を拒絶した。

三、被告は、

(1) 昭和三七年一一月一日、同年六月分より同年一〇月分までの五ヶ月分の賃料金四、二五〇円を、

(2) 同三八年六月七日、同三七年一一月分より同三八年五月分までの七ヶ月分の賃料金五、九五〇円を、

(3) 同三九年二月四日、同三八年六月分より同年八月分までの三ヶ月分の賃料金二、五五〇円を、

(4) 同三九年二月一一日、同三八年九月分より同三九年一月分までの五ヶ月分の賃料金四、二五〇円を、

(5) 同三九年三月六日、同年二月分の賃料金八五〇円を、

(6) 同年四月一六日、同年三月分の賃料金八五〇円を、

(7) 同三九年五月七日、同年四月分の賃料金八五〇円を、いずれも宿女得次郎(または同人の通称宿女源次郎)宛に弁済供託した。

四、被告は、適法の転借人として、民法第六一三条第一項により、賃貸人である宿女得次郎に直接に義務を負うから、被告が宿女得次郎宛にした弁済供託は有効である。

五、仮りに右弁済供託が無効であるとしても、原告のなした解除の意思表示はつぎの理由により無効である。

(1) 原告の定めた催告の期間は相当でない。

(2) 被告は、昭和二五年九月原告より本件家屋を賃借の際、権利金として、金一八、五〇〇円を原告に支払っている。

(3) 被告は、法律の知識がなく、かつ当時病気であったので、被告の妻つや子に賃料供託を一任し、つや子は、その姉の夫である訴外杉田富雄と京都地方法務局長の認可した司法書士川村光蔵と相談の結果、前記の宿女得次郎宛の弁済供託をすることになった。」

と述べた。

≪証拠関係省略≫

理由

原告主張の一、三の事実、被告主張の三の事実は当事者間に争がない。

まず、被告のした弁済供託の効力について判断する。

民法第六一三条第一項によれば、賃借人乙が適法に賃借物を転貸したときは、転借人丙は賃貸人甲に対して直接に義務を負うが、甲が丙に対して請求しうる賃料の額は、甲が乙に対して請求しうる額(賃借料)と乙が丙に対して請求しうる額(転借料)の両方の範囲内であり、請求しうる時期は、乙丙それぞれについて弁済期の来たときである。

したがって、賃借人乙が賃貸人甲に対し賃借料の支払を遅滞なく履行しているとき、適法の転借人丙が、乙および甲の受領拒絶を理由に、乙に対する転借料を甲宛に弁済供託しても、その弁済供託は無効である。

本件についてこれをみるに、原告本人の供述によれば、原告(賃借人)は宿女得次郎(賃貸人)に対して賃借以来現在まで賃借料の支払を遅滞なく履行している事実を認めうるから、被告(適法の転借人)が宿女得次郎宛にした弁済供託は、その余の判断をなすまでもなく無効である。

つぎに、被告の五の主張について判断する。

(1)  原告の定めた催告期間は、催告債務の種類と額より考えて、相当である。(仮りに相当でないとしても、昭和三八年七月末日を経過すれば、相当期間を十分経過したものと認められるから、おそくとも昭和三八年七月末日の経過とともに本件家屋賃貸借契約は終了し、本訴の結論に差異を生じない。)

(2)  被告主張の五の(2)の事実に符合する≪証拠省略≫は採用し難く、かえって≪証拠省略≫によれば、被告が金一八、五〇〇円を支払った相手は、本件家屋の前転借人上田新市であって原告でない事実を認めうる。

(3)  仮りに、被告主張の二および五の(3)の事実のとおりであっても、それだけでは、原告の本件解除の意思表示を無効とするに足りない。

被告は原告の催告並びに条件付解除の意思表示後も、被告主張三の(3)、(4)、(5)、(6)、(7)のとおり、宿女得次郎宛に弁済供託を続け、本訴においても、被告の宿女得次郎宛の弁済供託をすべて有効であると主張するだけであって、被告が、原告催告後現在にいたるまでの間において、原告催告賃料を原告に提供した事実は、認められない。

したがって、被告の主張はいずれも理由なく、本件家屋賃貸借契約は昭和三八年七月二五日の経過とともに解除により終了したものと認める。

よって、原告の本訴請求を正当として認容し、民事訴訟法第八九条第一九六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 小西勝)

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